世界遺産に関する質問主意書

衆議院ホームページ 質問主意書より


提出者  丸山穂高

世界遺産に関する質問主意書

 世界遺産は、千九百七十二年の第十七回国際連合教育科学文化機関(UNESCO)総会で採択された「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」の中で定義されており、現在世界全体で千百二十一件が登録されている。日本国内においては二十三件の登録があり、政府は遺産の保護・保全のために様々な取組を行っている。関連して、以下質問する。

一 世界遺産の登録後には観光客増加等、経済効果が発生する事例も多く、地域振興の期待も大きかったが、新型コロナウイルスによる影響が世界遺産観光についても懸念されている。

 世界遺産観光に対する新型コロナウイルス対策について、政府は何らかの検討を行っているか。検討している場合、具体的内容を回答されたい。

二 世界遺産の登録には、文化遺産に関しては国際記念物遺跡会議(ICOMOS)、自然遺産に関しては国際自然保護連合(IUCN)というUNESCOの諮問機関による評価が世界遺産委員会の場でも尊重され、登録の可否に大きく影響を与えている。このうち、ICOMOSによる調査については、調査に当たる専門家の出身国等背景となる文化の違いなどから、推薦国の意図する遺産の価値や精神性の十分な理解に至らず、登録の可否に影響を与えていると言われており、近年、評価を出す前の年から推薦国と対話し、改善点などを事前に伝えるよう手続の見直しが図られている。

 このような状況を踏まえ、政府は世界遺産登録を目指し暫定リストに記載している物件の積極的な説明を、ICOMOSやIUCNに対して行うべきと考えるが、政府が我が国の物件の登録に当たって行っている取組状況について具体的に回答されたい。

三 「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成資産のうち、端島炭坑(軍艦島)について、二千十五年の世界文化遺産への登録の際、韓国は第二次世界大戦中の徴用工と結び付けた登録反対運動を行ったものと承知している。韓国の行動は、我が国の重工業分野の近代化を約五十年という短期間で達成し、現在の国家の土台を構築したことの証明という本遺産群の持つ本質的価値とは関係のない徴用工を登録反対の理由としたものであり、世界遺産制度の政治利用であると考えるが、本件に関する一連の経緯及び政府の立場について具体的に説明されたい。

四 条約に基づく世界遺産事業等のほか、UNESCOは条約に基づかない「世界の記憶」事業も行っている。「世界の記憶」においては、二千十五年に中国が登録申請した「南京事件」に関する文書が登録されているが、申請した資料には事実と異なるものや不適切なものが含まれており、当時政府はUNESCO関係者に慎重な審査を求めていたものと承知している。

 このように、政治利用になりかねない案件を世界的に重要な記録物として登録することについて、日本政府としてUNESCOに対し、中立的な組織運営を行うよう働きかけを普段より行うべきと考えるが、政府はどのように考えるか。また、具体的な行動を起こしている場合、その内容はどのようなものか。回答されたい。

五 世界遺産に関する教育として、例えば小学校学習指導要領の社会(第六学年)では、世界遺産を取り上げることにより、我が国の歴史上の主な事象についての知識・技能を身に付けることとされている。

 我が国の歴史や文化への理解を深めるとともに、国際社会や自然環境について学ぶ機会として、世界遺産に関する学習をより促進する必要があると考えるが、政府の見解を回答されたい。

令和二年四月十七日

内閣総理大臣 安倍晋三

       衆議院議長 大島理森 殿

衆議院議員丸山穂高君提出世界遺産に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

衆議院議員丸山穂高君提出世界遺産に関する質問に対する答弁書

一について

 お尋ねの「世界遺産観光に対する新型コロナウイルス対策」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、我が国に存在する世界文化遺産を含む文化施設の管理等に際しての新型コロナウイルス感染症対策については、文化庁において「新型コロナウイルスに関連した感染症対策に関する対応について(依頼)」(令和二年二月三日付け文化庁政策課長事務連絡)等を発出し、地方公共団体や文化関係団体の長等に対し、文化施設の管理等に際しては、内閣官房のホームページ等から最新の情報を確認した上で、安全確保に細心の注意を払うよう依頼しているところである。

 また、新型コロナウイルス感染症の拡大等に起因した観光客の減少等の影響を踏まえ、観光関連事業者の事業継続のための様々な支援を行っているほか、「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」(令和二年四月七日閣議決定)において、文化芸術・スポーツ施設における感染症防止策の実施への支援等を行うこととしたところである。

二について

 政府としては、我が国に存在する文化遺産又は自然遺産の一部を構成する物件の世界遺産一覧表への記載の推薦に当たり、国際連合教育科学文化機関(以下「UNESCO」という。)への推薦書提出後、UNESCOの顕著な普遍的価値を有する文化遺産及び自然遺産の保護のための政府間委員会(以下「世界遺産委員会」という。)の諮問機関である記念物及び遺跡に関する国際会議(以下「ICOMOS」という。)等が派遣する専門家による現地調査での説明の機会や審査の過程における追加情報の提出等の機会を活用し、これらの物件の価値等について諮問機関の理解が得られるよう説明に努めている。

三について

 お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」については、ICOMOSが、平成二十七年五月にこれを世界遺産一覧表に記載することが適当であると勧告したことを受け、同年七月に開催された第三十九回世界遺産委員会においてその世界遺産一覧表への記載が決定されたところである。

 我が国としては、世界遺産一覧表への記載については、ICOMOSの勧告が尊重され、専門的見地から審議が行われるべきとの立場に基づいて、世界遺産委員会の構成国に対して十分説明を行い、その立場について理解が得られたものと認識している。

四について

 御指摘の「「世界の記憶」事業」については、現在、UNESCOにおいて同事業の非政治化に向けた制度改善のための議論が行われているところ、政府としては、これまでにもUNESCOにおいて同事業の非政治化の重要性について主張してきたところであり、引き続き同事業の制度改善に向けた取組に積極的に参画し、貢献していく考えである。

五について

 小学校学習指導要領(平成二十九年文部科学省告示第六十三号)では、第六学年の社会において我が国の歴史上の主な事象について指導する際、「世界文化遺産に登録されているものなどを取り上げ、我が国の代表的な文化遺産を通して学習できるように配慮する」こととするとともに、文化庁の地域文化財総合活用推進事業において、我が国に所在する世界文化遺産についての普及啓発及びその価値や魅力の発信等を担う人材の育成等の事業を支援しているところである。政府としては、文部科学省において、これらの取組を通じて、世界遺産に関する学習が推進されるよう引き続き努めていく考えである。

à suivre

今を考えるため情報源を文字として残したい。 そしてまた後日、それを読み返してみたい。 自分自身で考えることをやめないように。