獣医療関係者と飼い主との間のトラブルに関する質問主意書
参議院ホームページ 質問主意書より
浜田 聡
獣医療関係者と飼い主との間のトラブルに関する質問主意書
平成二十一年五月二十八日に農林水産省「平成二十一年度獣医事審議会計画部会第一回小動物分野ワーキンググループ」にて配布された資料二―一「小動物における訴訟の現状と課題」の「第2 獣医療過誤訴訟の(平成十四年以降の)現状」に、「ここ数年、獣医療過誤の裁判は増え、裁判所が認める飼い主の慰謝料の額も増加している傾向がある」ことに対し、「第4 訴訟が起きる原因」に、医療ミスの原因として、獣医師の勉強不足、実力不足、注意力不足などが挙げられる他、飼い主の同意なくして行う過剰診療、無断手術、さらに、治療方針などについての説明不足が挙げられ、獣医師を監督する組織の不十分さが挙げられている。さらに「第5 今後の課題」として、大学教育及び、資格制度の見直し、国家試験合格後の研修の義務化、その後の定期的な研修制度(倫理研修を含む)の確立、獣医師に対する、監督、指導制度の充実、行政処分の強化などが挙げられている。
加えて、平成二十年日本獣医師会「―獣医療現場における危機管理のあり方―獣医療事故そのパラダイム」の総説の最後に、著者の池本卯典氏が次のように記載し、獣医療過誤と訴訟に警鐘を唱えている。「獣医療事故や過誤を回避する万全の体制を構築し、動物の生命を保全し、所有者の財産を守る新時代の獣医業の発展を期さなければ、獣医療の明日はないと思う。」
しかしながら、十年経過した現在、獣医療過誤訴訟は増える一方で、動物の愛護及び管理に関する法律はたびたび議論にあがり改正しているにも拘らず、獣医師法が議論にもならないのが疑問である。
右を踏まえて、以下質問する。
一 緒方林太郎衆議院議員が第百九十三回国会に提出した「公益社団法人日本獣医師会会長の見解に関する質問主意書」(第百九十三回国会質問第三三七号)にも取り上げられている公益社団法人日本獣医師会会長の見解「獣医師の需要動向をみましても、地域偏在や職域偏在はあるものの、全国的観点から獣医師数は不足していません」、「このような暴挙というべき国家戦略特区による獣医学部の新設は、これまで関係者が実施してきた国際水準達成に向けた努力と教育改革にまったく逆行するもので、不適切である」は傾聴に値するものと思われる。政府は、年々増え続けている獣医師による医療過誤及び医療機関への訴訟の原因はどのようなものがあると考えているか。獣医師の医療水準低下が一因ではないかと考えるが、政府の見解如何。
二 個人情報の保護に関する法律に規定される「個人情報取扱事業者」が取り扱う情報数の制限が撤廃されることになった結果、医師は同法二十八条二項により、医師による治療を受けた本人に対し、医師法二十四条一項で記録した診療録を開示する義務を負うこととなった。
1 獣医師が獣医師法二十一条に基づいて記載する診療簿(以下「カルテ」という。)は、獣医師法施行規則十一条一項各号の情報が記載されるから、飼い主の氏名又は名称及び住所はもちろんのこと、いつ、どのような治療を、どのペットに受けさせたのかがわかるから、特定の個人を識別することができる。従って、獣医師は、ペットに治療を受けさせた飼い主本人から、個人情報の保護に関する法律二十八条二項に基づきカルテを開示請求された場合、但し書きに該当する事由がなければ、これを開示する義務を負うと考えられるが、政府の見解如何。
2 前記二の1で獣医師にカルテ開示義務がなかった場合において、非常に珍しいペットなど、そのペットを飼っていること自体が個人を特定しうる状況である場合、ペットに治療を受けさせた飼い主本人から、個人情報の保護に関する法律二十八条二項に基づきカルテを開示請求された場合、但し書きに該当する事由がなければ、これを開示する義務を負うと考えられるが、政府の見解如何。
3 前記二の1、2がいずれも獣医師にカルテ開示義務がなかった場合において、獣医療が準委任契約である診療契約であることを鑑みると、民法六百四十五条に基づき、獣医師は飼い主の請求に応じて説明義務を負う。この説明義務の中には、カルテを飼い主に開示する義務はあるのか。
三 平成十四年十二月二十日、日本獣医師会が通知した「小動物医療の指針」には、「日本獣医師会が全国調査して公表している「小動物診療料金の実態調査結果」は、診療料金の算定上参考となる」、「獣医師は、飼育者の不信を招かないよう、診療料金表(診療項目によっては、その目安の金額)を待合室に掲示するとともに、診療明細書を発行する等、診療料金の透明性を確保しなければならない」と明記してある。
しかし、獣医療の診療報酬は全面的に自由診療とされ獣医師が自由に決めることが出来る。その上、院内に料金表を明記していない動物病院も少なくない。飼い主に詳しい説明もなく高額な医療費を請求される現状は、医科診療報酬点数表に基づき診療報酬が決定される医師からすれば不思議に思える。医療費自由設定のことは日本獣医師会のウェブサイトには記載されているも、飼い主がそのページのことさえ知らず、一度も閲覧したことがない人も少なくないであろう。特に、緊急のとき、飼い主には料金について説明を聞く余裕がなく、トラブルになりがちである。
1 政策上、獣医師の診療報酬に一定の基準を設けていないのはなぜか。
2 最低限、基本料金を院内やウェブサイトに明記することを義務付ける規定を作るように政府が獣医師会にはたらきかけることを提案したいが、政府の見解を示されたい。
なお、本質問主意書については、答弁書作成にかかる官僚の負担に鑑み、転送から七日以内での答弁は求めない。国会法七十五条二項の規定に従い答弁を延期した上で、転送から二十一日以内には答弁されたい。また、答弁書の文字がいわゆる青枠の五ミリ以内に収まっていなくてもかまわない。
答弁書
一について
政府としては、御指摘の「獣医師による医療過誤及び医療機関への訴訟」が「年々増え続けている」とは認識していないが、いずれにしても、飼育動物の診療上必要な獣医学並びに獣医師として必要な公衆衛生に関する知識及び技能について行う獣医師国家試験により、獣医師が行う獣医療について一定の水準は維持されているものと考えている。
二について
個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十七号)は、個人情報取扱事業者(同法第二条第五項に規定する個人情報取扱事業者をいう。以下同じ。)が、個人情報によって識別される特定の個人から、当該個人が識別される保有個人データ(同条第七項に規定する保有個人データをいう。以下同じ。)について、同法第二十八条第一項の規定による開示の請求を受けたときは、同条第二項ただし書に該当する場合を除き、遅滞なく、当該保有個人データを開示しなければならないと規定している。
お尋ねの獣医師が記載した診療簿については、当該獣医師が個人情報取扱事業者に該当し、当該診療簿に保有個人データが含まれる場合には、当該保有個人データの開示について、同条の規定を遵守して対応する必要があるものである。
なお、獣医療における診療契約は、一般に準委任契約であると解されるところ、民法(明治二十九年法律第八十九号)第六百五十六条において準用する同法第六百四十五条の規定に基づく委任者への報告の内容については、個別具体的な事情を踏まえて判断されるべきものであることから、同条の規定に基づく報告として獣医師が記載した診療簿の開示を求めることができるかどうかについて、一概にお答えすることは困難である。
三の1について
お尋ねの小動物の獣医療に係る「獣医師の診療報酬」については、獣医師が診療を行う小動物の種類、当該小動物の疾病及び傷害等が多種多様であることに鑑みると、一定の基準を設けることは困難であると考えている。
三の2について
政府としては、「獣医療を提供する体制の整備を図るための基本方針」(令和二年五月二十七日農林水産大臣決定)において、小動物の飼育者のニーズに適切に対応した獣医療を提供する観点から、「飼育者が獣医療の内容やその費用について理解した上で安心して獣医療を受けられるよう、獣医師の飼育者に対するインフォームドコンセントの徹底について啓発を図る」こととしている。
なお、御指摘の「小動物医療の指針」においては、御指摘のように「獣医師は、飼育者の不信を招かないように診療料金表(診療項目によっては、その目安の金額)を待合室に掲示するとともに、診療明細書を発行する等、診療料金の透明性を確保しなければならない」ことが示されているほか、「予測できる範囲で、具体的な金額を提示する。また、確定的な診療料金を予測することが困難な場合には、飼育者等にその旨を説明して了解を得るとともに、おおよその金額を示す」こと等も示されており、こうした旨が公益社団法人日本獣医師会の会員に対して周知されているものと承知している。
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